内縁の妻(夫)への財産の渡し方にはどのような方法があるの?
2022.04.14 Thu
長年事実婚として、戸籍に入籍はせずに夫と生活をともにしてきたAさん。Aさんは、夫が亡くなった時に相続人になれるでしょうか?
ご存知の方も多いかと思いますが、事実婚は法的な婚姻ではないため内縁関係の配偶者は法定相続人となることは出来ません。法定の婚姻をせず、事実婚のままで確実に財産を承継させる方法に
①生前贈与の活用
②遺言の活用
③生命保険の活用
④家族信託の活用
の方法が考えられます。
これらの方法について解説する前に、事実婚の配偶者と、法律婚の配偶者の法律関係について簡単にご説明していきます。
◇法律婚の配偶者は常に相続人
民法では、被相続人の配偶者は常に相続人となります(民法890条)。ただし、婚姻は戸籍法の定めるところによって、その効力を生じます(民法739条1項)ので、結婚式を挙げて、親族や近所の人も夫婦と認めていたとしても、婚姻届出を提出していなければ法律上有効な婚姻とならず相続人にはなれません。
逆に、いくら仲の悪い夫婦でず~~っと別居状態であったとしても、離婚調停や裁判中であったとしても、戸籍上の夫婦である間は、配偶者には相続人となり相続分があります。被相続人の死亡時に配偶者の地位があれば、その後配偶者が旧姓に戻っても、再婚したとしても、相続人として相続権があります。
◇内縁の配偶者への配慮
内縁の配偶者は相続人となることは出来ませんが、そうとはいっても、なんの保護もないわけではありません。内縁の配偶者は、一定の場合には財産の承継が認められる場合があります。
1.借家権の承継
借家人が相続人なしに死亡した場合、その借家に住んでいた内縁の配偶者には、借家権の承継が認められます(借地借家法36条)
一方で、借家人に相続人がいる場合には、相続人が借家権を相続する事になりますが、その場合でも、特別の理由がない限り、相続人がその借家に住んでいる内縁の配偶者に退去を迫る事は許されないと考えられています(最高裁昭和39年10月13日判決)。
2.特別縁故者としての財産分与請求
相続人が誰もいない場合には、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に務めた者など、被相続人と特別の縁故があった者が居れば、その者に相続財産の一部または全部が与えられる場合があり、これを特別縁故者に対する相続財産分与といいます(民法958条の3)
そのため、事実婚の妻(夫)は、被相続人に誰も相続人がいない場合に限り、相続財産の一部または全部を承継出来る可能性があります。
内縁の配偶者が、特別縁故者として相続財産を承継するには、次の手続きをする必要があります。
①相続人の存否が不明の場合には、利害関係人(内縁の配偶者や債権者など)の申し立てにより、家庭裁判所が相続財産管理人を選任します。
②選任された相続財産管理人は、被相続人の債権者らに対して被相続人の債務を支払うなどの清算をします。
③相続財産管理人が、不明である相続人の捜索をするための公告を行い、相続人である権利を主張する者がいない事を確認します。
④この公告期間満了後3か月以内に、被相続人と特別の縁故があった者は、家庭裁判所に特別縁故者に対する財産分与審判申し立てを行います。
3.内縁の配偶者にも受給資格が認められる給付
労働災害における遺族補償(労働基準法79条、労働者災害補償保険法16条の2)や国民年金における遺族基礎年金(国民年金法5条7項・同37条)、厚生年金保険の遺族厚生年金(厚生年金保険法3条2項・同59条)などの給付に関しては、事実上の婚姻関係である内縁の配偶者にも、法律上の配偶者と区別せず受給資格が認められています。
◇内縁の配偶者に財産を渡す方法
①生前贈与
内縁の配偶者に財産を渡す方法として、まず、生前に財産を贈与するという方法があります。贈 与契約は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をする契約のことをいいます(民法549条)。
贈与契約は、口頭でも効力を生じますが、後日のトラブル防止のためにも贈与契約書を作成する事をお勧めいたします。なお、贈与による財産の承継は、内縁関係の配偶者への贈与税の軽減措置はありませんので、税金の事を考慮すると長期にわたって贈与する必要が出てきます。思い立ってすぐに多額の財産を渡すことは難しいので、早めに専門家に相談に行きましょう。
②遺言
遺言で内縁の配偶者に対して財産を遺贈する方法があります。遺言は、死後に効力が発生するものですので、ご自身の死後に財産を承継させるので良ければ遺言を活用しましょう。ただし、よく財産の全てを遺贈するという内容の遺言作成をご希望の方がいらっしゃいますが、もし、ご自身が亡くなった時に内縁の配偶者以外に相続人がいる場合(兄弟姉妹を除く)は、遺留分を考慮して作成する事をお勧めいたします。遺留分を侵害して作成した遺言によって、内縁の配偶者が相続によるトラブルに巻き込まれ無いようにしましょう。
③生命保険
生命保険金の受取人を内縁の配偶者としておくことで、財産を残す方法もあります。ただし、内縁の配偶者を死亡保険金の受取人とすることが出来ない保険会社もあります。
同居の期間や、同一生計なのか、また、戸籍上の配偶者の有無(離婚しないで内縁の配偶者がいる場合)などにより、保険金額に上限を設ける場合や、引受けができない可能性もありますが、まずは加入するときに「内縁・婚約者を保険金受取人にしたい」ということを伝えましょう。弊所は、保険の代理店も行っておりますので、生命保険を利用したいとお考えの方は弊所までお問い合わせください。
④家族信託
内縁の配偶者への資産承継に家族信託を活用することも出来ます。家族信託で財産を帰属させる相手は、相続人だけではなく、内縁の配偶者に帰属させることも可能だからです。
家族信託を活用すると、例えば「財産は内縁の妻に渡したいけど、内縁の妻が亡くなった後は、残った財産は前妻との間の子供に全額渡したい」といったことが可能です。
自宅は、内縁の妻が亡くなるまでは内縁の妻が安心して住めるようにして、内縁の妻が死亡後は、前妻との間の子供に自宅を渡すという方法をとれば、内縁の配偶者には認められていない配偶者居住権と同じようなことが可能になります。また、子供への財産承継の配慮もなされるので、無用な相続トラブルを回避するのにも有用です。
苫小牧の相続のことなら弊所にお気軽にご相談下さい。弊所(司法書士・行政書士)で対応出来ない案件は、弁護士、税理士、社会保険労務士、土地家屋調査士等のパートナー士業様をご紹介いたしますので、「どこに相談に行けば良いのだろう??」というご心配は無用です。